新型コロナウイルスによる肺炎による死者が出て以来、もうすぐ1カ月が経つ。多くの中国人観光客が帰省したり、海外旅行に出る春節のタイミングと重なったことで、日中経済に大きな打撃を与えている。現在の中国の状況と今回の件が中国経済に与えるインパクトをまとめた。
新型コロナウィルス感染状況速報・中国全分布図
1.春節連休終了。新型肺炎の影響は、今どうなったのか
中国国家衛生健康委員会によると、2月6日0時現在、中国国内での新型コロナウイルスによる肺炎の感染者数は24434人、うち重症患者は3219人、完治者数は1019人、死者数は493人となり、2003年のSARSの死亡者数をすでに超えた。
また、感染源である武漢、湖北省では、同時点で、感染者数13522人、死者数は414人と状況はかなり深刻だ。これ以外にも、病院で診察を受け経過観察措置となっている人数は4万3121人となっており、今後も増える見込みと言われている。
今回の危機的状況を受けて、中国中央政府は1月27日、当初1月31日までとしていた春節休暇を2月2日まで延長すると発表。
北京と上海は、学校に対しては2月17日まで、企業に対しては、インフラ・医療・小売業を除く企業に対して、2月9日まで休暇の延長を求めており、ほとんどの企業は、3日から在宅勤務という形で対応しているという。
2、「一時休眠」 1000 万人の町、武漢の今の素顔
新型コロナウイルスの広がりを防ぐため、1月23日から、1100万人人口を抱える中国・武漢市では、駅、空港を一時閉鎖し、そして市内のバスや地下鉄も運行も停止し、許可を受けた車両以外は通行できない状況が続いている。
その他、多くの商業・娯楽施設やレストランも営業停止。例えば、日系企業で有名な「ユニクロ(UNIQLO)」と「無印良品」も、武漢市内では営業を見合わせている。イオンは、武漢にあるイオンモールの専門店街を当面休業している。
一方、品薄状態が続いていたスーパーでは徐々に供給する食糧が確保され、野菜や冷凍食品などを買い求める市民がレジに並ぶ姿も見られるようになった。
また、新型コロナウイルスによる肺炎患者を専門治療ために2つの病院の建設が突貫工事で進められており、2月2日には、1つめの病院「火神山病院」が完成した。
3、春節 7 日間の経済損失は、1兆元( 16 兆円)
中国清華大学と不動産大手恒大集団の共同研究所、恒大研究院によると、2020年の7日間の春節休暇期間中の経済損失は、映画レジャー市場70億元、飲食・小売市場5000億元、旅行市場5000億元、計1兆元以上になるとみられている。 (2019年の春節休暇期間中における中国国内の売上高は、観光業界で5139億元、小売・飲食業界で1兆50億元、映画業界は58.59億元。2020年はいずれも対前年比でプラスになる見込みだった)
24日、中央政府の措置に応じて、団体ツアーが全面禁止され、数万社以上の旅行会社が致命的な打撃を受けている。また、外食デリバリー業界でも、春節休みで多くの飲食店は閉店した。ほとんどのスーパーは1月27日から閉店したが、営業を続けているスーパーもある。
その他、春節期間中の1月末の中国における移動人数は約7割減少し、交通業界もいうまでもなく大きな打撃となっている。
一方で、すべての薬局、物流運輸は非常時対応で、24時間営業を続けている。マスク、消毒剤などに加え、生鲜食品や生活用品をインターネットで注文する人が多くなっているため、消耗品や生活用品のデリバリー業界にはプラスの影響が出ている。
4、中国観光・レジャー業界の実況と各社の対応
中国文化旅行部は、中国国内の旅行会社に対して、1月24日から、国内の団体旅行と、航空券と宿泊をセットで手配するパッケージツアーを、1月27日からは、国内旅行や海外旅行を含む全ての団体旅行とパッケージツアーの手配業務取りやめを通達し、事実上の旅行禁止措置がなされた。
こういった事態を受けて、OTAなど個人旅行に関する分野でもキャンセル対応の動きが出ている。
<旅行> アリババ傘下の旅行サービスプラットフォーム「フリギー」は、武漢発着の航空路線や宿泊施設、観光施設のチケット、レンタカーや送迎などの無料キャンセル対応に加え、フリギー上の店舗や施設が無料キャンセルに応じない場合、損失は同社が負担する旨を発表している。 その他の大手旅行会社も類似措置に応じているが、中小の旅行会社は、キャンセル費用を全額負担するところもあり、深刻な経営危機に陥っている。
<交通> 鉄道業界でもキャンセル料無料での返金対応に追われている。中国国鉄の公式サイト「鉄路12306」と中国民用航空局は、1月23日24時以前に駅や公式サイトで購入したチケットはキャンセル料無料にすることを1月24日に発表した。
<レジャー施設> 全国の博物館、美術館、レジャー施設、商業施設ほぼ全部営業休止。 一番早く、営業休止を決定したのは、上海ディズニーランド。そのあと上海ハッピーバレー、テレビタワーなどは一時閉館する旨を発表、上海龍華寺は例年開催している除夜の鐘を休止した。 北京でも、故宮博物館は、1月25日から一時閉館することを発表している。潭柘寺、戒台寺、妙峰山、古北水鎮などの観光施設は、1月23日から営業や活動休止を公表した。 多くの中小企業が深刻な経営危機を直面している中、1月30日頃、不動産各社も新型肺炎の影響を受けた小売業への支援策として、テナント賃料減免政策を打ち出しており、1月30日時点で約600のスーパー・百貨店が対象となっている。
今回の中国で春節に発生した新型コロナウイルスによる肺炎の影響は、日本経済にも大きな打撃を与えている。訪日中国人をクライアントに持つ旅行会社や宿泊施設は一気に大人数のキャンセルを受け、その対応に追われている。またクルーズ船のキャンセルも相次いでおり、その影響は日を追うごとに深刻になっている。政府は、中小企業向けの経営相談窓口を設けるなど支援の輪も広がってはいるものの、厳しい状況はしばらく続くことが考えられる。そのようななかで今できることがあるとしたら、中国が落ち着いたときに、素早く次の行動に着手するための準備に尽きるのではないだろうか。